大阪地方裁判所 平成元年(ワ)6032号 判決 1992年2月27日
大阪府堺市八田寺町四七六番地の九
原告
東洋水産機械株式会社
右代表者代表取締役
松林兼雄
右訴訟代理人弁護士
村林隆一
右同
松本司
右同
今中利昭
右同
吉村洋
右同
浦田和栄
右同
森島徹
右同
豊島秀郎
右同
辻川正人
右同
東風龍明
大阪府大東市緑が丘二丁目一番一号
被告
日本フイレスタ株式会社
右代表者代表取締役
小川豊
大阪府茨木市中津町一二番八号
被告
小川豊
被告ら訴訟代理人弁護士
筒井豊
右輔佐人弁理士
西教圭一郎
右同
摩嶋剛郎
主文
一 本件請求の趣旨第一項の訴えを却下する。
二 被告両名は原告に対し、連帯して金一〇〇〇万円及びこれに対する平成元年七月二九日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余は被告らの連帯負担とする。
五 この判決は、第二項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求の趣旨
一 被告小川豊は、特許番号第一五〇八〇九四号の特許権に基づいて、原告に対し、原告が別紙物件説明書(一)及び(二)記載の各魚卵採取装置を製造、販売することの停止を求める権利を有しないことを確認する。
二 被告両名は、原告が製造、販売する前項の各装置が前項の特許権を侵害するものである旨を文書又は口頭で第三者に言いふらしてはならない。
三 被告両名は原告に対し、連帯して金二七九六万五九二三円及びこれに対する平成元年七月二九日(訴状送達日の翌日)から支払済に至るまで年五分の割合による金員(民法所定の遅延損害金)を支払え。
四 被告日本フイレスタ株式会社は、みなと新聞及び日刊水産経済新聞に、別紙謝罪広告目録記載(一)の謝罪広告を、同記載(二)の態様により、各一回掲載せよ。
第二 事案の概要
一 被告小川豊の権利
被告小川豊(以下「被告小川」という。)は、左記の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。なお、本件発明の出願公告に基づく仮保護の権利を「本件仮保護の権利」という。)を有している(争いがない)。
1 発明の名称 タラ類の魚卵に傷がつかない魚頭切断装置
2 出願日 昭和五八年六月八日(特願昭五八-一〇三一八七)
3 出願公告日 昭和六三年一一月九日(特公昭六三-五六七七八)
4 登録日 平成元年七月二六日
5 特許番号 第一五〇八〇九四号
6 特許請求の範囲
「魚体を搬送方向に交差する方向であって、かつ横臥した姿勢で搬送する魚体搬送手段と、
魚体の胸ビレに挿入される直線状の線体または直線の薄い板状体と、
上記魚体搬送手段により搬送される魚体を、上記線体または板状体との距離を相対的に近付けて、上記線体または板状体を魚体の胸ビレに、その胸ビレを大きく拡げることなしに挿入させる手段と、
胸ビレが大きく拡げられていない状態で、胸ビレの付け根付近の位置で頭部を切断する切断手段とを含むことを特徴とするタラ類の魚卵に傷がつかない魚頭切断装置。」(別添特許公報〔以下「本件公報」という。〕参照)
二 本件発明の構成要件及び作用効果(甲一)
1 構成要件
(一) 魚体を搬送方向に交差する方向であって、かつ横臥した姿勢で搬送する魚体搬送手段と、
(二) 魚体の胸ビレに挿入される直線状の線体または直線の薄い板状体と、
(三) 上記魚体搬送手段により搬送される魚体を、上記線体または板状体との距離を相対的に近付けて、上記線体または板状体を魚体の胸ビレに、その胸ビレを大きく拡げることなしに挿入させる手段と、
(四) 胸ビレが大きく拡げられていない状態で、胸ビレの付け根付近の位置で頭部を切断する切断手段とを含むことを特徴とする、
(五) タラ類の魚卵に傷がつかない魚頭切断装置。
2 作用効果(本件公報1欄16行~3欄31行、8欄14行~9欄26行参照)
(一) 魚体の大小にかかわらず、魚体の胸ビレの付け根位置を基準にして、魚頭切断のための魚体の位置決めを行うことができる。
(二) 右の位置決めを、魚体の胸ビレを大きく拡げることなく行うことができるため、魚頭を切断したときに頭部軟骨の一部が胴部に付着することがなく、従って、魚頭切断後に魚体を三枚下ろしにして得られるフィレ肉に軟骨が残存することがない。
(三) また同様にして、頭部軟骨の一部が胴部に付着することにより、魚卵の排出口を狭くして当該排出を困難にしたり、破卵の原因となっていた左記(1)ないし(3)の先行技術(胸ビレを魚体の長手方向に大きな角度〔ほぼ垂直近く〕に拡げて位置決めを行うとともに、胸ビレを大きく拡げた状態で頭部を切断する技術)の欠点を解消することができる。
(1) 特開昭五七-二九二四六号公開特許公報に開示された技術(以下「従来例1」という。甲二)
(2) 特開昭五四-八六六八〇号公開特許公報に開示された技術(以下「従来例2」という。甲九)
(3) 特開昭五〇-一二九四〇〇号公開特許公報に開示された技術(以下「従来例3」という。甲八)
三 被告日本フイレスタ株式会社と原告との競業関係
1 被告日本フイレスタ株式会社(以下「被告会社」という。)は、水産食品加工機械、輸送機械等の製造据付販売及び輸出入等を業とする株式会社である(争いがない)。
2 被告会社は被告小川から本件特許権について独占的通常実施権を許諾されており、本件発明の実施品(たら子取機型式名E-五〇一、E-五〇三、EFH-八五)を製造、販売している(甲四、五及び二三の各1、2、三四、乙七、九の1、2、証人水谷修一〔以下「証人水谷」という。〕、弁論の全趣旨)。
3 原告は、水産加工機械及び部品の製造販売並びに輸出入を業とする株式会社である(争いがない)。
4 原告は、業として、平成元年一月ころから、スケソウタラを対象とする別紙物件説明書(一)記載の魚卵採取装置(以下「原告装置(一)」という。)を製造、販売していたが、その後その製造を中止し(甲一七、三二、三五、乙二、三の1~4、五、八、検甲一~九、一四、一五、一七、検乙一、二の1~4、三の1~8、証人桜井規久男〔以下「証人桜井」という。〕、弁論の全趣旨)、現在は、スケソウタラを対象とする別紙物件説明書(二)記載の魚卵採取装置(以下「原告装置(二)」という。)を製造、販売している(甲三五、検甲一〇~一三、一六、弁論の全趣旨)。
なお、原告装置(一)と同(二)とは、胸ビレ係止台枠の形状が相違する点を除き、その余の構成は同一であり、製品名も同じ「TOYO-六六〇型」である。また、右「TOYO-六六〇型」には、TOYO-六六〇型(単に魚卵を採取する機能だけを有する型)、TOYO-六六〇A型(魚卵を採取後、魚を摺り身にする機械と接続可能な型)、TOYO-六六〇B型(魚卵を採取後、魚をいわゆる三枚下ろしにする機械と接続可能な型)の三種類がある(以下、「原告装置」と総称する。甲七、乙八、弁論の全趣旨)。
四 被告らの行為
1 被告会社は、平成元年六月一三日ころ、原告に対し、同日付の「・・・当社は特公昭六三-五六七七八号『タラ類の魚卵に傷がつかない魚頭切断装置』(平成元年四月七日特許査定、同年五月二三日設定年金納付)を所有しております。・・・、最近貴社が製造販売されておりますスケソウダラ魚卵採取機TOYO-六六〇型は、右当社権利を侵害しているものと考えますので、その製造販売を直ちに停止される・・・。」との警告書を送付し、原告が被告会社の有する本件仮保護の権利を侵害している旨の警告をした(以下「本件警告行為」という。甲三)。
2 被告会社は、業界紙である「みなと新聞」(平成元年六月一五日付・甲四の1、2)及び「日刊水産経済新聞」(同月一六日付・甲五の1、2)に、いずれも「謹告」と題する「最近、スケソウタラ(日刊水産経済新聞ではスケソータラ)を対象とした弊社の『たら子取機型式名E-501、E-503、EFH-85』を模倣した魚体処理機が弊社に無断で製造販売されています。これは弊社の特公昭六三-五六七七八号を侵害しておりますので、関係者は十分留意されるよう、ここに警告申し上げます。本件侵害については、自衛上、断固たる法的処理をとる所存でありますので、模倣機のご使用は差し控えられるよう、重ねて警告いたします。」との広告(以下「本件広告1」という。)を掲載して、被告会社の本件仮保護の権利が侵害されている旨の警告をした(甲四、五の各1、2)。
3 被告会社は、平成元年六月一九日ころ、原告の取引先である東北、関東地方所在の約一〇社に対し、同日付の「お得意様各位殿」と題する「・・・。さて、同封新聞明記の通り特許侵害についての相手先は東洋水産機械KKであり、断固たる処置をとるべく東洋水産機械KKに既に通告済であります。念の為に御通知申し上げます。・・・」との文書を配付して、右新聞広告で指摘した本件仮保護の権利の侵害者は原告である旨を通知(以下「本件通知」という。)した(甲六、弁論の全趣旨)。
4 被告会社は、同年七月一七日付「日刊水産経済新聞」(甲二三の1、2)及び「みなと新聞」(甲三四)に、いずれも「謹告」と題する「東洋水産機械株式会社は当社の有する特許権を侵害していないとしておりますが、業界紙でその効用や技術内容を発表する等して、同社が製造販売しています商品名『魚卵採取機TOYO-六六〇型』は当社の『たら子取機・型式名・E-五〇一、E-五〇三、EFH-八五』の特許(特公昭六三-五六七七八号)技術内容に抵触し、その特許権を侵害していることは明らかで、このことは本年六月十五日、同月十六日付新聞掲載の謹告で公表しております。当社はこの侵害について既に同社に対し書面にて警告したうえ訴訟手続中であります。・・・」との広告(以下「本件広告2」という。)を掲載した(甲二三の1、2、三四)。
5 被告小川は、被告会社の代表取締役であり(争いがない)、被告会社の代表者として本件警告行為、並びに本件広告1、2の掲載及び本件通知(以下一括して「被告陳述流布行為」という。)を指揮監督した(弁論の全趣旨)。
五 原告装置(一)、(二)と本件発明との対比
1 原告装置(一)は、本件発明の構成要件(一)の「魚体搬送手段」及び同(五)の「魚頭切断装置」を具備している(争いがない)。
2 原告装置(二)の胸ビレ係止台枠8が本件発明の構成要件(二)の「魚体の胸ビレに挿入される直線状の線体または直線の薄い板状体」に該当しないことは明らかであり、原告装置(二)は本件発明の技術的範囲に属さない(争いがない)。
六 原告の請求の概要
1 被告小川に対して、原告装置(一)、(二)はいずれも本件発明の技術的範囲に属しないことを理由に、その製造、販売差止請求権不存在の確認を請求(以下「本件確認請求」という。)。
2 被告らに対して、被告陳述流布行為が、不正競争防止法一条一項六号の「競争関係ニアル他人ノ営業上ノ信用ヲ害スル虚偽ノ事実ヲ陳述シ又ハ之ヲ流布スル行為」に該当すること、被告らにおいて、原告装置(一)、(二)が本件特許権を侵害する旨を陳述、流布するおそれがあることを理由に、その差止を請求(以下「本件差止請求」という。)。
3 被告らに対して、被告陳述流布行為により、原告が右行為前に受けていた注文(発注)のうち原告装置合計二六台及びスペアパーツの発注を当該発注元から撤回されたことによる得べかりし利益相当損害金一七九六万五九二三円(販売代金合計二億七六三九万八八二〇円×純利益率六・五パーセント)、並びに原告の営業上の信用毀損による損害金一〇〇〇万円の合計二七九六万五九二三円の賠償を請求。
4 被告会社に対して、右賠償のみでは償えないほど原告の営業上の信用が著しく毀損されたことを理由に、業界紙に謝罪広告の掲載を請求。
七 争点
1 本件確認請求につき、訴えの利益(確認の利益)が存するか否か。
2 原告装置(一)は本件発明の技術的範囲に属するか否か。
(一) 原告装置(一)の胸ビレ係止台枠8は、本件発明の構成要件(二)の「直線状の線体または直線の薄い板状体」に該当するか否か。
(二) 原告装置(一)は、本件発明の構成要件(三)の「搬送される魚体を、・・・線体または板状体との距離を相対的に近付けて、・・・線体または板状体を魚体の胸ビレに、その胸ビレを大きく拡げることなしに挿入させる手段」を具備しているか否か。
3 前項が否定された場合、被告陳述流布行為は、不正競争防止法一条一項六号の虚偽事実陳述流布行為に該当するか否か。
4 被告らが、現在原告装置(一)、(二)が本件特許権を侵害する旨を陳述、流布しているか否か、将来同旨の行為をするおそれがあるか否か。
5 3項が肯定された場合、原告が被告らに対して損害賠償請求権及び謝罪広告請求権を有するか否か。
(一) 原告主張の発注撤回の事実の有無及び右発注撤回と被告陳述流布行為との因果関係の有無。
(二) 被告らに責任があるか否か(被告小川の故意又は過失の有無)。
(三) 右(一)、(二)が肯定された場合、それを理由に被告らが賠償すべき原告の損害(右発注撤回による原告の逸失利益)の額。
(四)(1) 被告陳述流布行為により、原告の営業上の信用が毀損されたか否か。
(2) 右(1)が肯定された場合、それを理由に被告らが賠償すべき原告の損害額。
(五) 謝罪広告請求の可否。
第三 争点1ないし4に関する当事者の主張
一 争点1(確認の利益の存否)
1 被告らの主張(本案前の抗弁)
(一) 原告装置(一)は、本件警告行為及び被告陳述流布行為において被告らが特許権侵害を主張した対象物件である。しかしながら、被告小川は、平成元年八月一日、当庁に原告を被申請人として原告装置(一)について本件特許権に基づく製造販売差止の仮処分申請をした(当庁平成元年(3)第二三四一号魚卵採取装置製造販売差止等仮処分申請事件)が、被申請人たる原告が、原告装置(一)の製造を既に中止しており、将来も製造することがない旨主張したため、申請人たる被告小川は右申請を取下げた。本訴においても原告は、右と同旨の主張をしており、被告小川は、原告装置(一)について本件特許権に基づく再度の差止請求のための仮処分申請若しくは訴え提起をする意思はない。従って、本件確認請求のうち同装置に関する部分は、現在及び将来行われる可能性のない製造販売行為に対する差止請求権の不存在確認を求めるものであり、確認の利益がないことは明らかである。なお、被告らが、過去の原告装置(一)の販売について、将来損害賠償請求をする可能性はあるが、その防御のためには端的に右損害賠償債務の不存在確認を求めれば足りるから、その点を考慮しても、現在差止請求権の不存在確認を求める利益があるとはいえない。
(二) 原告が原告装置(二)の製造、販売を開始した時期は、早くても原告が同装置の構成を最初に開示した平成元年八月三一日付訴状訂正申立書の提出時期の前後、すなわち同年八月ころ以降である。被告らが本件警告行為及び被告陳述流布行為をした同年六月ないし七月当時、原告が製造、販売していたのは原告装置(一)である。右行為当時原告装置(二)は存在しておらず、被告らは本件訴訟において原告が主張するまで原告装置(二)の存在すら知らなかった。右行為当時被告らが「TOYO-六六〇型」の製品名で指摘した装置はあくまで原告装置(一)のみであったことは明らかである。更にその後においても、被告らが原告装置(二)が本件発明の技術的範囲に属する旨若しくは同装置が本件特許権を侵害する旨を陳述、流布したことはなく、被告らは将来においても同装置に関して右のような主張をする意思はない。従って、本件確認請求のうち同装置に関する部分も確認の利益がない。
2 原告の主張
(一) 原告装置(一)と同(二)の差異は、胸ビレ係止台枠8の形状の差異のみであり、それ以外の部材の形状はほぼ同一である。原告装置(一)は、胸ビレ係止台枠8の形状が原告装置(二)と異なり、上面フレーム部8aの頭部嵌合載置部6aに対向する端より形成された略垂直面8bを有しないため、魚体頭部の切断後、魚卵採取部に送り込まれるとき、胸ビレが胸ビレ係止台枠8に引掛かることがあり、そのため魚体が捩れ、魚卵を正確に採取することができず、又は魚卵を潰す事態が生じることがあった。そこで原告は、魚体頭部の切断時の胸ビレの胸ビレ係止台枠8への引掛を避けるため、胸ビレ係止台枠8に頭部嵌合載置部6aに対向する端に略垂直面8bを取付けることに(すなわち胸ビレ係止台枠8の形状を、原告装置(一)のものから同(二)のものに変更)した。原告は、平成元年一月から同年四月下旬までの間に、原告装置(一)を合計三四台製造、販売したが、その後、すべて原告装置(二)の胸ビレ係止台枠8と取替えた。同年四月下旬以降原告が製造、販売している魚卵採取装置「TOYO-六六〇型」は、すべて原告装置(二)である。
(二) 原告装置(一)及び同(二)はいずれも「TOYO-六六〇型」であるが、被告らの本件警告行為及び被告陳述流布行為の内容は、いずれも原告の「TOYO-六六〇型」が被告会社の本件仮保護の権利を侵害するとの内容であり、特に原告装置(二)を除外したものではない。しかも、右内容から、その相手方である原告の取引先に原告装置(一)と同(二)の差異が分るはずもないことは明らかである。従って、被告陳述流布行為は、いずれも原告装置(一)及び同(二)を対象としてなされたものといわざるを得ず、被告らの主張は失当である。
二 争点2、3(原告装置(一)の本件発明の技術的範囲への属否)
1 争点2(一)(本件発明の構成要件(二)の「直線状の線体または直線の薄い板状体」)について
(一) 原告の主張
(1) 本件発明の特許出願願書添付の明細書(以下「原明細書」という。)の記載は、特許庁における二度の拒絶理由通知(甲一一、一四)を受けてなされた補正で変更された(以下、右補正後の明細書を「特許明細書」という。)。特許請求の範囲中の、本件発明の構成要件(二)に関する記載は、原明細書(甲一〇の2)では「直線状の線体または縁が直線の板状体」であったが、第一回手続補正書(甲一二)では「直線状の線体または縁が直線の薄い板状体」、第二回手続補正書(甲一五)では「直線状の線体または直線の薄い板状体」と変更され、第二回手続補正書の記載が出願公告時の記載となった(甲一)。この補正過程において、拒絶理由中に引用された従来例1及び2と本件発明との差異を明確にするために、第二回拒絶理由通知に対する意見書(甲一六)には、右の「線体または直線の薄い板状体」とは、従来例1のブレーキシュウ11及び案内トラック13又は従来例2の案内体4の板状の部材と同一又は類似のものではなく、例えばピアノ線等の、魚体の厚み方向(第2図〔本件公報6頁第2図と同じ〕上下方向)に関して可及的に短く薄い形状のものであり、その構成、作用、目的ともに右従来例の板状の部材とは異なるものである旨が記載されている。そして、第二回手続補正書による補正によって、特許明細書の発明の詳細な説明にも、右意見書の記載と同旨の記載がなされた(同公報6欄41行~7欄12行)。また、原明細書の特許請求の範囲には、「直線状の線体または縁が直線の板状体」と記載されているが、実施例としてピアノ線以外の開示は全くなされていないうえ、その後なされた前記二回の補正においても実施例はそのままである。従って、本件発明の構成要件(二)の「直線状の線体または直線の薄い板状体」とは、ピアノ線のような線体又はこれと同程度、少なくとも類似した直線の薄い板状体に限定される。
(2) これに対し、原告装置(一)の胸ビレ係止台枠8の上面フレーム部8aは凹弧状に湾曲傾斜した板であり、ピアノ線と同程度、もしくはこれと類似した直線の薄い板状体ではないから、本件発明の構成要件(二)を充足しない。
(3) 右(1)で見たように、本件発明の構成要件(二)の「板状体」とは、「直線状の線体」と同程度のもの、又はこれと類似の薄い形状のものに限定される。すなわち同構成要件の均等物は、線体の均等物に限定され、右「板状体(=線体の均等物)」に更に均等を認めるべき理由はない。
(二) 被告らの主張
(1) 本件発明の技術思想の特徴は、頭部切断のための魚体の位置決めにおいて胸ビレの付け根の位置を基準とするとともに、先行技術(従来例1ないし3)と異なり魚体の胸ビレを大きく拡げることなく右位置決めのための胸ビレ係止部材を胸ビレに挿入させる手段を提供する点にある。このため、本件発明の構成要件(二)の「直線状の線体または直線の薄い板状体」の技術的意義は、<1> 頭部切断手段による魚体の切断面に対して所定の間隔で平行な一定の線上又は一定の同一平面上に前記位置決めのための胸ビレの付け根が位置するようにすることにより、頭部切断手段と魚体の切断箇所との位置関係を常に一定にすること、及び<2> 線体又は薄い板状体であることにより魚体の胸ビレを大きく拡げることなしに胸ビレを挿入できるようにしたことにある。本件発明の特許出願の経過を見ても、原告主張の各補正によって、本件発明の特徴は右<2>の点にあることを明らかにしたにすぎず、本件発明の技術的範囲をピアノ線のような直線状の線体またはこれと同程度あるいは類似する板状体に限定する趣旨ではない。従って、本件発明の胸ビレ係止部材(直線状の線体または直線の薄い板状体)は、右のような技術的意義を有し、同様の作用効果を果たすものであれば足り、必ずしも幾何学的に厳密な直線状の線体または直線の板状体に限定されるわけではない。
(2) これに対し、原告装置(一)の胸ビレ係止台枠8の上面フレーム部8aは、全体として凹弧状に湾曲しているとはいえ、その厚みは、魚体の胸ビレを大きく拡げることなしに(すなわち、従来技術1ないし3のように、胸ビレと魚体の長手方向とのなす角度が九〇度近い角度となることなしに)胸ビレに挿入できる程度に薄い板状体である。しかも右上面フレーム部8aは、全体としては凹弧状に湾曲しているものの、その両端部に比べて実際に胸ビレが係止される中間部が極めて緩やかな、ほとんど直線に近い弧状に形成されており、その本来的機能を果たすべき、胸ビレに挿入される部分は略直線である。また、右上面フレーム部8aの胸ビレの係止作用を果たす、頭部載置台6に対向する側の端縁は、魚体の頭部を切断する切断カッター11の回転平面に対して平行な同一平面内にあるように形成され(従って、右切断カッター11の傾斜角度で見れば、右端縁は直線状になる。)、このことによって、右上面フレーム部8aが本件発明における線体または板状体と同様に、頭部切断手段と魚体の切断箇所との位置関係を常に一定にする機能を果たしていることは明らかである。更に、右上面フレーム部8aの、腹部載置台9に対向する端より略垂直面8cが形成されているが、上面フレーム部8a自体が薄い板状体であるとともに、その上面は魚体の長手方向に沿って一定の幅を有するため、これに魚体を載置した場合、胸ビレが右略垂直面8cに当接することにより柔軟な胸ビレの先端側の過半は魚体の体側から離れて下垂することはあっても、胸ビレの付け根付近が大きく拡げられることはない。従って、原告装置(一)の胸ビレ係止台枠8の上面フレーム部8aは、本件発明の構成要件(二)を充足する。
(3) 原告装置(一)の胸ビレ係止台枠8の形状は、本件発明の非本質的な部分を、置換可能かつ置換容易な均等な技術によって置き換えたものである。すなわち、右胸ビレ係止台枠8の上面フレーム部8aの凹弧状の湾曲は、魚体の胸ビレ付け根位置と切断カッター11との位置関係に関して、本件発明における挿入部材(線体または板状体)と切断手段との同様の位置関係を変更したものではない。右の凹弧状の湾曲は、魚体表面の湾曲に近似した形状にすることにより専ら搬送方向に沿った方向への魚体の位置の変化を防止することを目的とし、本件発明の実施例(本件公報の第1図)において搬送具2が魚体を横向きに載置できる横幅を持ち、全体として方形薄形の構造を有していることと同様の作用効果を果たしている。従って、原告装置(一)の胸ビレ係止台枠8の形状は、本件発明の非本質的な部分の置換(又は設計上の微差)にすぎないとともに、その技術思想及び作用効果においても本件発明との差異はないし、右置換は、当業者であれば極めて容易である。
2 争点2(二)(本件発明の構成要件(三)の「搬送される魚体を、・・・線体または板状体との距離を相対的に近付けて、・・・線体または板状体を魚体の胸ビレに、その胸ビレを大きく拡げることなしに挿入させる手段」)について
(一) 原告の主張
(1) 本件発明の構成要件(三)によれば、まず装置に載置され「魚体搬送手段により搬送される魚体」を「線体または板状体との距離を相対的に近付け」、次に「線体または板状体を魚体の胸ビレに、その胸ビレを大きく拡げることなしに挿入させ」なければならない。これに対し、原告装置(一)の構成は、<1> 魚体搬送前に、人手によって魚体をそりかえらせて、魚体と胸ビレを拡げ、<2> 胸ビレを胸ビレ係止台枠8の上面フレーム部8aに係止させて魚体をコンベア装置2に供給し、<3> その後、魚体はコンベア装置2により搬送されるものであり、本件発明のように、魚体が搬送手段に供給された後、搬送途上で「板状体との距離を相対的に近付けて、上記板状体を魚体の胸ビレに挿入させる手段」を有しない。
(2) 特許明細書の発明の詳細な説明中には、本件発明の実施例として魚体を搬送するコンベアを傾斜させて魚体を滑落させる方法に関して、「すなわち、第6図に示すように、チェーン31のサイドプレートに蝶番32を設けて魚体搬送具33を傾斜自在に構成し、カムの押圧により魚体搬送具33が傾斜したとき魚体が尾部の方へ滑落してピアノ線34に引掛るよう構成することもできる。」との記載がある(本件公報6欄2~7行、6頁第6図)。しかしながら、原告装置(一)は、魚体搬送前に人手によって魚体の胸ビレを上面フレーム部8aに係止させて魚体をコンベア装置2に供給するものであり、魚体の胸ビレを上面フレーム部8aに係止した段階で魚体の位置が定まり、魚体が搬送手段たるコンベア装置2に供給された後にその自重等により滑落することはない。
(3) 原告装置(一)の頭部載置台6、胸ビレ係止台枠8及び腹部載置台9の傾斜は、魚体の腹内のタラコを頭部切断時に傷つけないよう、尾部側に下げるためのものであり、魚体を滑落させることはない。
(二) 被告らの主張
(1) 特許明細書の発明の詳細な説明中には、本件発明の実施例に関して、「本発明の挿入手段は、上記した回転ブラシによる手段、ピアノ線等を傾斜して設ける手段、重力により魚体を落下させる手段のほか、魚体を搬送するコンベアを傾斜させて魚体を滑落させることによっても実施することができる。」と記載されている(本件公報5欄42行~6欄2行)。この記載からすれば、コンベア自体を傾斜させて魚体を滑落させる手段に止まらず、原告装置(一)のように、コンベアを傾斜させることなく、その上に配設される魚体搬送具(頭部載置台、胸ビレ係止台枠及び腹部載置台)を全体として頭部側から尾部側に向かって下方に傾斜させて形成し、魚体を右魚体搬送具の上の任意の位置(但し、少なくとも胸ビレが頭部載置台6と胸ビレ係止台枠8との間隙に入り込む位置)に載置した場合、体表面のぬめりと自重により魚体が滑落し、このとき胸ビレ係止台枠8の上面フレーム部8aを魚体の胸ビレに、その胸ビレを大きく拡げることなしに挿入させるようにした手段もまた本件発明の構成要件(三)の「挿入させる手段」に該当する。
(2) 原告装置(一)の胸ビレ係止台枠8の上面フレーム部8aの、頭部嵌合載置部6aと対向した端面は、頭部嵌合載置部6aの対向端面よりもわずかに上方に位置するように構成されているが、右構成は、魚体の自重等による滑落を当然の前提とするものである(胸ビレの係止を全くの人手によってのみ行う場合には、右構成は不要である。)。
(3) 原告装置のパンフレット(甲七)によれば、原告装置の魚体の最大処理能力として毎分八〇尾、熟練度によって毎分三〇ないし六〇尾の処理が可能と記載されているが、例えば最大毎分八〇尾の魚体を処理する場合に、作業者が常に一尾ずつ両手で魚体を支持し、魚体をそりかえらせて魚体と胸ビレ部を拡げ、胸ビレ部を上面フレーム部8aに係止させるような時間のかかる作業をするはずもない。そのような場合の作業方法は、魚体を一尾ずつ片手でつかみ、上面フレーム部8aより上に胸ビレが位置するように見当をつけて魚体を搬送具に載せ、後は人出によらずに魚体がその表面のぬめりや水滴によって滑落して、上面フレーム部8aが魚体の胸ビレに挿入されるというものと推測される(一尾の魚体を搬送具に載せるだけでも約一秒はかかるとみるべきであり、原告主張のような時間のかかる作業をしていては、右の処理能力を発揮できない。)。
従って、右のような作業方法から考えれば、まず魚体を搬送具に載置した段階で魚体の搬送が開始され、その後ほとんど時間を置かずに魚体が滑落して胸ビレに上面フレーム部8aが挿入されると解されるが、右のような極めて短時間であっても、魚体の搬送途上と解することはなんら妨げられない。
原告装置(一)の魚体搬送具が本件発明の挿入手段に該当するかどうかは、客観的に判断されるべきものであり、個々の具体的な作業内容の可能性のような主観的な事情によって右の判断が左右されるべきものではない。原告装置(一)の魚体搬送具は、客観的構成自体において、全体としての傾斜からみて、本件公報の第6図に実施例として記載されたところとなんら変わりのない挿入手段を形成していると解すべきである。
三 争点4(本件差止請求対象行為の継続性又はそのおそれの有無)
1 被告らの主張
原告が原告装置(一)の製造を中止して久しく、他方、右製造中止に伴い、被告らにおいても原告装置(一)が本件特許権を侵害する旨の陳述、流布を中止して既に二年近くが経過している。従って、被告陳述流布行為が現在なお継続しているとはいえず、本件差止請求のうち原告装置(一)に関する部分は、差止請求の要件が既に失われており、理由がない。
本件差止請求のうち原告装置(二)に関する部分は、過去にも現在にも存在しない行為を対象とするものであり、理由がない。
2 原告の主張
争点1に関する主張と同旨。
第四 争点に対する判断
一 争点1(確認の利益の存否)
1 原告が現在原告装置(一)の製造、販売を中止していることは、当事者間に争いがない。被告らが本件訴訟において、原告装置(一)が本件発明の技術的範囲に属する旨を主張しているのは、専ら原告の本件差止請求、損害賠償請求及び謝罪広告請求に対する防御のためであって、被告小川は、将来原告が原告装置(一)の製造、販売を再開しない以上、原告に対し、同装置の製造、販売の差止請求権を行使する意思はない(弁論の全趣旨)。また、原告が原告装置(一)の製造、販売を中止したのは、単に紛争中であるから一時的に中止したというものではなく、同装置では魚体頭部の切断時に胸ビレが胸ビレ係止台枠8に引掛かることがあり、そのため魚体が捩れ、魚卵を正確に採取することができず、又は魚卵を潰す事態が生じることがあるという不都合があったため、胸ビレ係止台枠8に頭部嵌合載置部6aに対向する端に略垂直面8bを取付けて右不都合を解消することを考慮して原告装置(二)の製造を開始したことに基づくものであり、原告は原告装置(一)の製造、販売を再開することを予定していない(甲三五)。そうすると、本件確認請求の訴えのうち原告装置(一)に関する部分は、現在及び将来行われる可能性のない製造販売行為に対する差止請求権の不存在確認を求めるものであり、訴えの利益(確認の利益)はないというべきである。
2 原告は、平成元年七月一七日、当庁に被告会社を被申請人として、本件訴訟を本案とする不正競争防止法に基づく侵害事実の陳述、流布の差止仮処分申請(当庁平成二年(∃)第二一七一号)をした(甲三六、弁論の全趣旨)。右仮処分申請の対象とされた装置は原告装置「TOYO-六六〇型」の試作機(以下「原告試作機」という。)であり、その胸ビレ係止台枠の形状は別紙試作機胸ビレ係止台枠形状図記載のとおり、頭部載置台及び腹部載置台に対向するいずれの側にも略垂直面が形成されていないものである(甲三六、証人桜井)。本件訴訟においても、平成元年七月二五日受付の訴状において原告が本件係争装置として記載したのは原告試作機であったが、その後原告は、(一) 同年八月三一日付訴状訂正申立書の提出時(同日受付)に、初めて原告装置(二)を開示して、本件係争装置をこれに変更し、(二) 同年九月四日の本件第一回口頭弁論期日には、同年七月五日原告本社工場で撮影した原告装置(一)の写真(検甲一~九)を提出し、(三) 同年九月二九日付訴状訂正申立書及び同日付準備書面(一)の提出時(同月三〇日受付)に、原告装置(一)を一台だけ製造した「試験機」、原告装置(二)を「実用機」としたうえで、両装置を本件係争装置とすることに変更し、(四) 同年一〇月二日の本件第二回口頭弁論期日に、同年九月二〇日撮影の原告装置(二)の写真(検甲一〇~一三)を提出し、(五) 同年一二月一四日付準備書面(三)(同日受付・同月一八日本件第四回口頭弁論期日陳述)において、原告装置(一)は試験機ではなく、合計三四台製造販売した後製造を中止した実用機であると主張を訂正した(記録上明らかな事実)。右経緯からすると、原告が原告装置(一)の製造を中止し、原告装置(二)の製造、販売を開始した時期は、早くても原告が同装置の構成を最初に開示した平成元年八月三一日付訴状訂正申立書の提出時期の前後、すなわち同年八月ころ以降であると推認される。
この点につき、原告は、原告装置(二)の製造販売開始時期は平成元年四月下旬以降であると主張し、原告代表者作成の報告書(甲三五)及び証人桜井の証言中には右主張に副う部分があるけれども、仮に原告主張のとおりとすると、本件係争装置の胸ビレ係止台枠の形状は、右装置が本件発明の技術的範囲に属するか否かを判断するにあたって最も重要な点であるにもかかわらず、既に製造を開始している原告装置(二)を前記仮処分申請時や本件訴訟提起時に本件係争装置と記載せず、たった一台しか製造しなかった原告試作機(証人桜井)や不都合により既に製造を中止した原告装置(一)(甲三五)を本件係争装置と記載したことを合理的に説明することができない。従って、原告装置(二)の製造販売開始時期に関する右原告の主張及び証拠は採用できない。他に、右推認を左右する証拠はない。
右によれば、被告らが本件警告行為及び被告陳述流布行為をした平成元年六月ないし七月当時、原告が製造、販売していたのは原告装置(一)であり、右行為当時原告装置(二)は未だ存在しておらず、被告らは本件訴訟において原告が主張するまで原告装置(二)の存在すら知らなかった(乙七、検乙一、証人水谷)のであるから、右行為当時被告らが「TOYO-六六〇型」との製品名で指摘した装置は、あくまで原告装置(一)であって(乙七、検乙一、証人水谷)、同(二)が当時被告らの主観においても、また客観的にもこれに含まれなかったことは明らかである。しかも、原告装置(二)が本件発明の技術的範囲に属しないことは、当事者間に争いがない。従って、原告・被告小川間で、現在は勿論のこと、過去においても原告装置(二)につき本件特許権に基づく差止請求権の存否が争いとなったことはないから、本件確認請求の訴えのうち原告装置(二)に関する部分も、訴えの利益(確認の利益)はないというべきである。
3 以上によれば、本件確認請求の訴えは却下すべきである。
二 争点2、3(原告装置(一)が本件発明の技術的範囲に属するか否か。被告陳述流布行為が虚偽陳述等に当たるか否か。)
1 争点2(一)(本件発明の構成要件(二)の「直線状の線体または直線の薄い板状体」)について
(一) 本件発明の特許出願が出願公告されるまでの経緯は、次のとおりである(甲一、一〇の1~3、一一~一六)。すなわち、原明細書(甲一〇の2)の記載は、特許庁における二度の拒絶理由通知(甲一一、一四)を受けてなされた補正で変更され、特許請求の範囲中の本件発明の構成要件(二)に関する記載は、原明細書では「直線状の線体または縁が直線の板状体」であったが、第一回手続補正書(甲一二)では「直線状の線体または縁が直線の薄い板状体」、第二回手続補正書(甲一五)では「直線状の線体または直線の薄い板状体」と変更され、第二回手続補正書の記載が出願公告時の記載となった(甲一)。右補正の過程において拒絶理由中に引用された各従来例と本件発明との差異を明確にするために、特許出願人である被告小川は、第二回手続補正書において、「従来例1、2は胸ビレを魚体Fの長手方向と垂直な角度まで大きく拡げ、かつ拡げた状態を維持するのに、ブレーキシュウ11及び案内トラック13(従来例1)、また案内体4(従来例2)を用いるようにしている。一方、本件発明は胸ビレを可及的に大きく拡げないようにすることを眼目としている。そのため胸ビレに挿入される部材(すなわち『直線状の線体または直線の薄い板状体』)は、従来例1のブレーキシュウ11及び案内トラック13又は従来例2の案内体4の板状の部材と同一又は類似のものではなく、例えばピアノ線等の、魚体の厚み方向(第2図〔本件公報6頁第2図と同じ〕上下方向)に関して可及的に短く薄い形状のものであり、その構成、作用、目的ともに右従来例の板状の部材とは異なるものである」旨の記載を発明の詳細な説明に追加挿入した(同公報6欄15行~7欄12行)。
(二) 特許明細書の発明の詳細な説明中には、本件発明の構成要件(二)の「直線状の線体または直線の薄い板状体」の実施例として、<1> 第1図、第2図の例、<2> 第3図の例、<3> 第4図、第5図の例が開示されているが、いずれもピアノ線に胸ビレを係止する構成のものである(本件公報4欄4行~5欄33行、5~7頁)。そして、同説明中には「また、上記各実施例における変形実施例として、ピアノ線に替えて薄い板状体を用いても同様の作用効果を奏することができる。」との記載(本件公報5欄38~41行)があるものの、その具体例(寸法、形状等)はなんら開示されていない。また、前示のとおり原明細書の特許請求の範囲には「直線状の線体または縁が直線の板状体」と記載されているが、実施例としてピアノ線以外の開示は全くないうえ、その後なされた前記二回の補正においても実施例はそのままであり(甲一、一〇の2、一二、一五)、本件発明の特許出願の過程で、ピアノ線以外の実施例が具体的に開示されたことはない。
ピアノ線は、炭素〇・七五~〇・八五パーセントを含有し、均一な太さに冷間引き抜きした高抗張力鋼線であり(マグローヒル科学技術用語大辞典)、ピアノ線が本件発明の構成要件(二)の「線体」に該当することは明らかである。そして、JIS規格では、ピアノ線の線径が〇・〇八~六ミリメートルとされている。
(三) 右出願経緯及び特許明細書の記載等を総合考慮すると、本件発明の構成要件(二)の「薄い板状体」とは、「胸ビレを大きく拡げることなしに挿入」できる程度の、ピアノ線の右最大線径を著しく越えない厚みの板状体をいうものと解すべきである。
(四) 原告装置(一)は、頭部載置台6に頭部嵌合載置部6aが設けられ、この頭部嵌合載置部6aの傾斜角度は、胸ビレ係止台枠8の上面フレーム部8a、腹部載置台9の腹部載置面9aの傾斜角とほぼ同一に形成されている。そして、胸ビレ係止台枠8は、その上面フレーム部8aの腹部載置台9と対向する端より略垂直面8cを形成し、上面フレーム部8aは凹弧状に湾曲傾斜しているものであり、胸ビレを上面フレーム部8aの頭部載置台6に対向する側の縁部(以下「上面フレーム部8aの縁部」という。)に引掛ける構成になっている(別紙物件説明書(一))。上面フレーム部8aの縁部の厚みは、約一・五ミリメートル(検甲五、一四、一五)であるから、上面フレーム部8aの縁部自体のみを見ると薄い板状体といえないことはないけれども、上面フレーム部8aの縁部先端から約二四ミリメートル(水平距離では約一八・五ミリメートル)奥には略垂直面8cが形成されているから、魚卵を採取する成熟したスケソウタラの魚体を載置した場合、スケソウタラの胸ビレは右上面フレーム部8aから略垂直面8cまでの奥行よりもはるかに長く、容易に曲折しない固い部分も長いため(甲七のパンフレット中の写真参照)、その付け根を上面フレーム部8aの縁部に係止したとき、胸ビレの先端側の過半は魚体側から離れて下垂し、その固い部分の先端が略垂直面8cの下端付近に当接することになり、これを魚体搬送具の進行方向から見ると、別紙物件説明書(一)の第5図、第6図記載のように、胸ビレを大きく拡げて、胸ビレの付け根に、<1>上面フレーム部8aの上面、<2>略垂直面8cの内面、<3>胸ビレを各辺とする三角形状の係止具を挿入したのと同じ状態になる(別紙物件説明書(一)の第5図、第6図、検甲五~九、一四、一五、一七、弁論の全趣旨)から、本件発明の構成要件(二)の「直線状の線体または直線の薄い板状体」に相当する、原告装置(一)における魚体の胸ビレに挿入される係止具は、上面フレーム部8aのみではなく、上面フレーム部8a及び略垂直面8cを含む胸ビレ係止台枠8全体であると考えるべきである。
(五) 従って、原告装置(一)は、本件発明の構成要件(二)の「直線状の線体または直線の薄い板状体」を具備するということはできない。
また、前示の本件発明の構成要件、特許明細書の記載及び特許出願の経緯に照らすと、右「直線状の線体または直線の薄い板状体」は、本件発明の本質的部分に関わる構成要件であるから、原告装置(一)の胸ビレ係止台枠8を本件発明の構成要件(二)の「直線状の線体または直線の薄い板状体」と均等ないし設計上の微差と認めることもできない。
2 争点2(二)(本件発明の構成要件(三)の「搬送される魚体を、・・・線体または板状体との距離を相対的に近付けて、・・・線体または板状体を魚体の胸ビレに、その胸ビレを大きく拡げることなしに挿入させる手段」)について
(一) 「上記魚体搬送手段により搬送される魚体を、上記線体または板状体との距離を相対的に近付けて、上記線体または板状体を魚体の胸ビレに、その胸ビレを大きく拡げることなしに挿入させる手段」との特許請求の範囲の記載からは、「魚体搬送手段により搬送される魚体」すなわち搬送途上の魚体を「線体または板状体との距離を相対的に近付けて、・・・線体または板状体を魚体の胸ビレに・・・挿入させる手段」であると解するのが素直である。また、特許明細書の発明の詳細な説明中にも、本件発明の構成要件(三)の「挿入させる手段」の実施例について、(1) 第1図の例=コンベア1の所定位置に魚体を尾部の方へ滑らせるための回転ブラシ9が設けられたもの(本件公報4欄4~27行、5頁)、(2) 第3図の例=ピアノ線12を魚体の搬送方向に対して傾斜して配置し、魚体の搬送とともにピアノ線が胸ビレ内に入り込み、最もピアノ線が食い込んだ位置で魚頭切断用の回転ナイフ10により頭部が切断されるもの(同4欄33行~5欄2行、6頁)、(3) 第4図、第5図の例=ホイール21の魚頭受け部23に魚体を頭部を先頭にして挿入し、孔24を貫通する串で魚体を固定し、ホイールが回転して下部に達すると串が抜けて魚体が落下してピアノ線25に胸ビレが引掛かるもの(同5欄3~33行、6、7頁)、(4) 第6図の例=チェーン31のサイドプレートに蝶番32を設けて魚体搬送具33を傾斜自在に構成し、カムの押圧により魚体搬送具33が傾斜したとき魚体が尾部の方へ滑落してピアノ線34に引掛かるもの(同6欄2~7行)が記載されている。
右(1)、(2)の例は、魚体に直接物理的な力を加えて魚体を移動させるもの、右(3)、(4)の例は、重力作用を利用して魚体を滑落させるものであるが、いずれも積極的に「・・・魚体搬送手段により搬送される魚体を、・・・線体または板状体との距離を相対的に近付けて、・・・線体または板状体を魚体の胸ビレに、・・・挿入させる手段」を用いるものである。
右特許請求の範囲の記載と実施例の記載を併せ考慮すると、本件発明の構成要件(三)の「挿入させる手段」は、魚体搬送手段により搬送途上の魚体を、積極的に、線体または板状体との距離を相対的に近付けて線体または板状体を魚体の胸ビレに挿入させる手段を意味すると解すべきである。
(二) 原告装置(一)は、魚体搬送開始前に、人手によって胸ビレを胸ビレ係止台枠8の上面フレーム部8aに係止させて魚体をコンベア装置2に供給するものである(別紙物件説明書(一)、検甲八、九、一七、乙二)。従って、被告らが主張するように、原告装置(一)の魚体搬送具(頭部載置台、胸ビレ係止台枠及び腹部載置台)において、魚体の状態(ぬめりや水滴等)、魚体の大小(長短)によって載置された魚体が滑落することがあるとしても、それは魚体搬送手段により搬送されている際に生じるものではなく魚体を載置する際に生じる事態と考えるべきであり(そのような滑落は、魚体の載置時に胸ビレを胸ビレ係止台枠8の上面フレーム部8aに係止させた場合には生じる余地はない。)、原告装置(一)は、魚体搬送手段により搬送される魚体をその搬送途上で、積極的に胸ビレ係止台枠8に相対的に近付けてそれを魚体の胸ビレに挿入させる手段を用いたものとは認められない。そのうえ、前示のとおり、魚体の胸ビレに挿入される係止具は上面フレーム部8a及び略垂直面8cを含む胸ビレ係止台枠8全体と考えるべきであるから、この係止具が挿入された段階において胸ビレは大きく拡げられる。従って、右二点のいずれからみても、原告装置(一)は、本件発明の構成要件(三)の「搬送される魚体を、・・・線体または板状体との距離を相対的に近付けて、・・・線体または板状体を魚体の胸ビレに、その胸ビレを大きく拡げることなしに挿入させる手段」を具備しない。被告会社撮影のビデオテープ
(検乙四)も、右認定を左右することはできない。
3 結論
以上のとおりであるから、原告装置(一)は本件発明の技術的範囲に属さず、その製造、販売は本件特許権を侵害する行為ではない。また、被告会社は本件特許権の保有者ではなく、本件広告2の掲載当時、被告会社は原告に対して仮処分申請、訴訟提起等の手続をとっていなかった(弁論の全趣旨)。従って、被告陳述流布行為は、虚偽事実の陳述流布にあたるというべきである。そして、それが、原告の営業上の信用を害するものであることも、その行為の内容自体から明らかである。
なお、本件広告1において対象物件を単に「模倣機」と記載しているのみであるが、被告陳述流布行為当時、日本国内において本件係争装置と同様の魚卵採取装置を製造、販売していたのは、実質的には原告及び被告会社の二社のみであった(実際には三社であったが、原告及び被告会社のシェアは合計九五パーセント以上であり、その余の函館公海漁業株式会社は主として自社系列の漁船にしか販売していなかった。甲三二、証人桜井)から、水産加工業界においては、右「模倣機」なる表現が原告製造、販売にかかる魚卵採取装置(TOYO-六六〇型)を意味するものであることは明らかであった。
三 争点4(本件差止請求対象行為の継続性又はそのおそれの有無)
現在被告らが、特定又は不特定の第三者に対して、原告装置(一)、(二)が本件特許権を侵害する旨を陳述、流布している事実を認めるに足りる証拠はない。また、争点1について判示したとおりであるから、将来被告らが、第三者に対して、原告装置(二)については勿論のこと、原告装置(一)についても、それが本件特許権を侵害する旨を陳述、流布するおそれがあるとは認められない。従って、原告の本件差止請求は理由がない。
四 争点5(損害賠償請求及び謝罪広告請求の可否)
1 争点5(一)ないし(四)(被告らが支払うべき損害金額等)
(一) 発注撤回による損害の主張について
原告は、被告陳述流布行為により、原告が右行為前に受けていた注文(発注)のうち、泰東製鋼株式会社分五台、大洋漁業株式会社分八台、泰林産業株式会社分八台、正英工業株式会社分五台の合計二六台及びスペアパーツの発注を当該発注元から撤回されたことにより、得べかりし利益金一七九六万五九二三円(販売代金合計二億七六三九万八八二〇円×純利益率六・五パーセント)相当の損害を受けた旨主張し、右発注及びその撤回の原告主張を支持する証拠(甲二四~三〇、三二、三八~四一の各1、2、乙一八の1、2、証人桜井)も外形的には十分ある(但し、甲三九の2の回答書中の照会事項(五)及び乙一八の2の回答書中の照会事項(四)後段に関する各回答部分は、右各回答書の証拠価値を著しく減殺するものである。)。しかしながら、(1) 原告は、<1> 本件警告行為に対しては、弁護士・弁理士に検討を依頼し、原告装置(原告装置(一)と推認される。)は本件発明の構成要件(二)の「直線状の線体または直線の薄い板状体」、同(三)の「(魚体の)胸ビレを大きく拡げることなしに挿入させる手段」を具備しておらず、被告会社の権利を侵害しないとの検討結果を得て、その旨の平成元年六月三〇日付回答書を被告代理人宛てに発送し(甲一八、三二、証人桜井)、<2> 本件広告1に対しては、同年七月一一日付の業界紙(みなと新聞、日刊水産経済新聞)に右広告よりも大きなスペースで反論の広告を掲載し(なお、右各広告には本件発明の特許出願公告番号の誤記があったため、後日右各紙に訂正通知広告を掲載した。甲四、五及び一九~二二の各1、2)、<3> 本件広告2に対しては、同月一七日に前示の仮処分申請をし、同月一九日右申請の認容決定を得て(甲三六)、更に同月二五日本件訴訟を提起し(記録上明らかな事実)、その間取引先に事情を説明する等の努力をして(甲三二、証人桜井)、素早く、適切かつ効果的に、被告陳述流布行為の影響力を排除する措置を取っていること、(2) 前示の原告装置(一)から同(二)への変更、すなわち胸ビレ係止台枠8の頭部載置台6側に略垂直面8bを付加するだけの簡単な構成変更により取引先の不安を解消させることができたと推認されること、(3) 国内は勿論世界的にみても、市場で販売されるこの種機械装置のメーカーはほぼ原告と被告会社の二社に限られている(甲三二、証人桜井、弁論の全趣旨)から、取引先にとって真実必要なものであったのであれば、原告装置の発注を撤回した場合、被告会社に対し発注ないし取引の引き合いがあるのが通常と考えられるが、そのような事実はなかったこと(乙七)、(4) 当業界においては、被告陳述流布行為のような権利主張がされた場合、侵害していると指摘された業者の取引先はそのことの故にその業者との取引を中止するようなことはせず、その権利関係を調査のうえ、その業者に当該権利主張が誤りであること及び仮に当該権利主張が正当であったときはその取引先に生じる全損害を補填する旨の保証をさせたうえで、取引を継続するのが通常であること(乙七)、(5) 実際、米国セントポール・シーフーズ社に納品された原告装置五台は、被告陳述流布行為の後に原告がその旨の保証をして泰東製鋼株式会社に販売したものであること(この事実は、被告らの指摘後に原告がやむを得ず認めたもの。)、(6) 原告は、原告が右発注を撤回した主張する取引先とその後も取引関係を維持していること(証人桜井、弁論の全趣旨)等の事実に、被告ら提出援用の証拠(乙四、六、七、一一~一三、一四の1、2、一五、一七、一九、二一、二二の1~11、検乙五、証人水谷)を併せ考え、本件全証拠及び全事実関係を検討した結果、当裁判所としては、本件証拠関係の下においては、原告が被告らに対し逸失利益相当損害金を請求できる程確定的に、原告主張の右発注がありその撤回があったとは、どうしても認めることができない(なお、真実必要なものとしての発注であれば、仮に発注撤回があったとしても、この種装置を製造、販売しているのが実質上原告と被告会社の二社であるので、被告会社に対する発注がない以上、後日原告に対する発注の可能性が十分残されていると考えられるから、発注撤回があったことから直ちに原告にその発注撤回分の得べかりし利益相当の損害が発生したと考えることもできない。)。
また、仮に原告主張の右発注がありその撤回があったとしても、発注を撤回した取引先はすべて、被告陳述流布行為の内容が真実であり原告装置が本件発明の技術的範囲に属する(原告が本件特許権を侵害している)と考えたのではなく、原告・被告会社間の本件特許紛争に巻き込まれるのを避けるために発注を撤回したのである(甲二九、三〇、三八~四一の各1、2)から、被告会社が、被告陳述流布行為ではなく、原告に対し原告装置の製造、販売が本件特許権の侵害に該当する旨の権利主張をしているとの事実関係を正確に(虚偽部分のない)広告等をしていた場合にも(但し、この場合被告会社の行為を違法ということはできないと考えられる。)、本件特許紛争に巻き込まれるのを避けるために同様の発注撤回をしたはずである。すなわち、右取引先の発注撤回は、被告陳述流布行為中の虚偽部分が原因でなされたものではなく、右虚偽部分には関係なく、被告陳述流布行為から判明するところの、被告会社が原告に対し原告装置の製造、販売が本件特許権の侵害に該当する旨の権利主張をし、原告との間で紛争が生じているとの事実(真実)が原因でなされたものであるから、被告陳述流布行為中に虚偽部分があるからといって、被告陳述流布行為により虚偽部分に関係なくされた発注撤回分の得べかりし利益相当の損害が原告に発生したということはできない(被告陳述流布行為中の虚偽部分と発注撤回との間に因果関係がない。)。この点からみても、右発注撤回による原告の損害の主張は採用できない。
結局、当裁判所としては、これら事実関係は、被告陳述流布行為によって原告が被った信用毀損による損害金額の算定において考慮すべきものと考える。
(二) 原告の営業上の信用毀損の有無と損害額について
(1) 被告陳述流布行為の内容、(2) 原告装置は、タラ漁の漁船に搭載する機械であるが、タラ漁は毎年、タラがタラコを持っている一〇月中旬から翌年三月までが最盛期であり、原告装置の納品は漁船の出港期限である平成元年一〇月までに完了しなければならなかったところ、原告装置は注文販売であるため、その製造日数を考慮すると、同年五月から七月までがその受注時期である(甲三二)から、被告陳述流布行為は、原告の営業活動にとって極めて重要な時期になされたものであること、(3) 前示のとおり原告は、<1> 本件警告行為に対し、弁護士・弁理士に検討を依頼し、被告会社の権利を侵害しないとの検討結果を得て、その旨の平成元年六月三〇日付回答書を被告代理人宛てに発送し、<2> 本件広告1に対しては、同年七月一一日付の業界紙(みなと新聞、日刊水産経済新聞)に反論の広告を掲載し(なお、右各広告には本件発明の特許出願公告番号の誤記があったため、後日右各紙に訂正通知広告を掲載した。)、<3> 本件広告2に対しては、同月一七日に前示の仮処分申請をし、同月一九日右申請の認容決定を得て、更に同月二五日本件訴訟を提起し、その間取引先に事情を説明する等の努力を強いられたこと等、本件に現われた一切の事情を総合考慮すると、右信用毀損による原告の損害額は一〇〇〇万円と認めるのが相当である。
(三) 被告らの責任について
原告装置(一)が本件発明の技術的範囲に属さず、原告の右装置製造、販売が本件特許権を侵害しないことに、前示の本件発明の特許出願の経緯を併せ考慮すると、被告陳述流布行為は少なくとも被告会社代表者である被告小川の過失に基づくものであると認めるのが相当である。従って、被告らは連帯して原告が被った右損害を賠償する義務がある。
2 争点5(五)(謝罪広告請求の可否)
被告陳述流布行為により、右損害賠償の他に謝罪広告を必要とするほど原告の営業上の信用が著しく害された事実を認めるに足りる証拠はない。従って、原告の本件謝罪広告請求は理由がない。
(裁判長裁判官 庵前重和 裁判官 長井浩一 裁判官 辻川靖夫)
(別紙)
物件説明書(一)
一 物件の種別・名称
魚卵採取装置(TOYO-六六〇型)
二 図面の説明
第1図は、一側面図。
第2図は、他側面図。
第3図は、簡略平面図。
第4図は、魚体を載置して供給を開始している状態の平面図。
第5図は、第4図の状態の簡略縦断正面図。
第6図は、頭部切断状態を示す簡略縦断正面図。
第7図、第8図は、魚卵採取工程を説明するたあの平面図。
第9図は、胸ビレ係止台枠8の縦断面図。
第10図は、胸ビレ係止台枠8の斜視図。
三 物件の構成の説明
<1> 1は機台で、魚体aの腹部cを搬送方向に向けた状態で魚体頭部bを位置決めし、かつ頭部bから腹部cを尾部eに向かって斜め下方に傾斜させた状態にして水平方向に搬送するコンベアー装置2を配設しているとともに、該コンベアー装置2と平行にして、コンベアー装置2と後記無端搬送挟持手段5間に配設されて搬送途上で魚体aの腹部cと尾部e間の胴下半部dを挟持する上下一対の無端挟持ベルト3、4と、同じく搬送途上で尾部eを挟持する上下一対の無端搬送挟持手段5とを並設してある。
<2> コンベアー装置2は、魚体頭部bを載置する頭部載置台6を一定間隔毎に取付けている無端ベルト7と、魚体aの胸ビレ部fを係止させる胸ビレ係止台枠8及び腹部載置台9を一定間隔毎に取付けている無端ベルト10とからなり、魚体aの搬送始端、すなわち機台1の後端から前方に向かって機台中央部分にまで駆動ホイール21と従動ホイール22間に掛け渡されてある。
<3> 頭部載置台6は、第4、第5図に示すように、その上面が無端ベルト7の一端縁側から他端側に向かって徐々に深くなるように凹弧状に彎曲傾斜し、かつ無端ベルト7から上方に位置する頭部嵌合載置部6aを有する。
<4> 胸ビレ係止台枠8は、その上面フレーム部8aの腹部載置台9と対向する端より略垂直面8cを形成し、右上面フレーム部8aは該頭部嵌合載置部6aと同様に凹弧状に彎曲傾斜していると共に該載置部6aと対向した端面が該載置部6aの対向端面よりもわずかに上方に位置して魚体aの下側胸ビレ部fが容易に係止できるように形成してある。
<5> 更に、腹部載置部9もその載置面9aを凹弧状に彎曲させ、かつ胸ビレ係止台枠8の上面から尾部e側に向かって下方に緩やかに傾斜させている。
<6> 11はコンベアー装置2の魚体搬送終端部寄りに配設した円形状の頭部切断カッターで、機台1に配設されたモーター23によって回転駆動されるものであり、その切断刃は前記頭部載置台6と胸ビレ係止台枠8間の間隙部内に斜め方向、すなわち、頭部載置面に直交する方向に挿入してある。
<7> 一方、魚体aの腹部cと尾部e間の胴下半部dを挟持する上下一対の無端挟持ベルト3、4において、下側ベルト4は機台1の全長に亘って駆動プーリー24と従動プーリー25間に無端状に掛け渡され、上側ベルト3は頭部切断カッター11の位置よりも後方寄り部分から搬送終端(機台の前端)まで駆動プーリー24と従動プーリー27間に無端状に掛け渡されている。
<8> 下側ベルト4には、前記コンベアー装置2の頭部載置台6等と同一間隔毎に胴下半部載置面部4aを設けて頭部載置台6や胸ビレ係止台枠8、腹部載置台9と横方向に一列状態で移行させるようにしていると共に該載置面部4a、4a間の端縁部上には背部受止フレーム12を固着してある。
<9> 14は頭部切断カッター11の前方(コンベアー装置2の前方)における機台1の前部に配設した押圧部材で、頭部b切断後の魚体aの腹部肛門側に当接する。
<10> また、前記押圧部材14を前記背部受止フレーム12面に沿って魚体aの搬送に従って略平行移動させる押圧部材作動機構が配設されている。
以上
第1図
<省略>
第2図
<省略>
第3図
<省略>
第5図
<省略>
第6図
<省略>
第4図
<省略>
第7図
<省略>
第8図
<省略>
第9図
<省略>
第10図
<省略>
(別紙)
物件説明書(二)
一 物件の種別・名称
魚卵採取装置(TOYO-六六〇型)
二 図面の説明
第1図は、一側面図。
第2図は、他側面図。
第3図は、簡略平面図。
第4図は、魚体を載置して供給を開始している状態の平面図。
第5図は、第4図の状態の簡略縦断正面図。
第6図は、頭部切断状態を示す簡略縦断正面図。
第7図、第8図は、魚卵採取工程を説明するための平面図。
第9図は、胸ビレ係止台枠8の縦断面図。
第10図は、胸ビレ係止台枠8の斜視図。
三 物件の構成の説明
<1>~<3> 別紙物件説明書(一)の三<1>~<3>と同旨。
<4> 胸ビレ係止台枠8は、その上面フレーム部8aの頭部載置台6及び腹部載置台9と対向する各端より略垂直面8b、8cを形成し、右上面フレーム部8aは該頭部嵌合載置部6aと同様に凹弧状に彎曲傾斜していると共に該載置部6aと対向した端面が該載置部6aの対向端面よりもわずかに上方に位置して魚体aの下側胸ビレ部fが容易に係止できるように形成してある。
<5>~<10> 別紙物件説明書(一)の三<5>~<10>と同旨。
以上
第1図
<省略>
第2図
<省略>
第3図
<省略>
第4図
<省略>
第5図
<省略>
第6図
<省略>
第7図
<省略>
第8図
<省略>
第9図
<省略>
第10図
<省略>
(別紙)
謝罪広告目録
(一) 謝罪広告
弊社は平成元年六月一五日付みなと新聞、同月一六日付日刊水産経済新聞並びに同年七月一七日付の右両新聞に、及びお客様各位に対する文書にて、貴社製の魚卵採取装置「TOYO-六六〇型」が弊社の特許「特公昭和六三年第五六七七八号」を侵害する旨の広告、通知をなしましたが、このことに対し、貴社より大阪地方裁判所に提訴(差止請求権不存在確認等請求事件)を受け、その審理の結果、貴社の「TOYO-六六〇型」は弊社の右特許権を侵害していないことが確定しました。
貴社には多大の御迷惑をおかけし、かつ貴社の業務上の信用を著しく傷つけましたことを深謝し、貴社の名誉回復のためにここに陳謝致します。
平成 年 月 日
大阪府大東市緑が丘二丁目一番一号
日本フイレスタ株式会社
代表取締役 小川豊
大阪府堺市八田寺町四七六番地の九
東洋水産機械株式会社 殿
(二) (みなと新聞)
広告の大きさ 全四段
広告の掲載場所 第一面 記事下
文字の大きさ 三倍明朝体
(日刊水産経済新聞)
広告の大きさ 全四段
広告の掲載場所 第一面 記事下
文字の大きさ 写植文字二八級
以上
(別紙)
試作機胸ビレ係止台枠形状図
<省略>
<19>日本国特許庁(JP) <11>特許出願公告
<12>特許公報(B2) 昭63-56778
<51>Int.Cl.4 A 22 C 25/14 25/12 識別記号 庁内整理番号2104-4B 2104-4B <24><44>公告 昭和63年(1988)11月9日
発明の数 1
<54>発明の名称 タラ類の魚卵に傷がつかない魚頭切断装置
<21>特願 昭58-103187 <65>公開 昭59-227236
<22>出願 昭58(1983)6月8日 <43>昭59(1984)12月20日
<72>発明者 小川豊 大阪府茨木市中津町12の8
<71>出願人 小川豊 大阪府茨木市中津町12の8
<74>代理人 弁理士 西教圭一郎 外3名
審査官 松田一弘
<56>参考文献 特開 昭57-29246(JP、A) 特開 昭54-86680(JP、A)
実公 昭51-13437(JP、Y1)
<57>特許請求の範囲
1 魚体を搬送方向に交差する方向であつて、かつ横臥した姿勢で搬送する魚体搬送手段と、
魚体の胸ビレに挿入される直線状の線体または直線の薄い板状体と、
上記魚体搬送手段により搬送される魚体を、上記線体または板状体との距離を相対的に近付けて、上記線体または板状体を魚体の胸ビレに、その胸ビレを大きく拡げることなしに挿入させる手段と、
胸ビレが大きく拡げられていない状態で、胸ビレの付け根付近の位置で頭部を切断する切断手段とを含むことを特徴とするタラ類の魚卵に傷がつかない魚頭切断装置。
発明の詳細な説明
本発明は、魚体の頭部切断位置を揃え、この切断位置が揃えられれたタラ類を、その魚卵に傷をつけることなく魚頭を切断する装置に関する。
従来の魚体切断処理は、魚頭先端を当て板等により揃えたのちに魚頭を切断していたから、あらかじめ魚の大きさを選別せずに大小さまざまな魚体を処理する場合、頭部の長さが変るので、胴部の肉を頭とともに捨ててしまつたり、胴部に頭部の一部が付着したまま食用に供してしまう欠点があつた。
他の先行技術は、特開昭57-29246および特開昭50-129400の開示されている。この2つの先行技術の基本原理は、第7図に示されるように魚体Fを頭部から尾部に向けて力を与え、または魚体Fの自重で力を作用させ、胸ビレ50を魚体Fの長手方向に垂直に延びている板状体51で受け、これによつて胸ビレ50を魚体Fの長手方向に大きな角度θ1を成して拡げて位置決めを行つている。
またさらに他の先行技術は、特開昭54-86680に開示されており、この先行技術では、胸ビレに尾部側から頭部側に向けて水を噴射して胸ビレを第7図と同様に大きな角度θ1を成して拡げて、この大きく拡がつている胸ビレによつて切断位置の位置決めを行つている。
したがつてこれらの先行技術では、胸ビレの魚体の長手方向との成す角度θ1を大きくした状態で頭部を切断しているものである。この角度θ1は、90度に近い角度である。
このような90度に近い角度θ1を成すように大きく胸ビレを拡げた状態で頭部を切断する場合には、以下のような欠点を有する。
一般に、魚体Fの骨格は第8図に示されるように、中骨52は頭部側に向かうに従つて背53側に近接し、その端部が頭部軟骨54に連結されて構成される。この頭部軟骨54には、肩骨55が連結され、この肩骨55に連なつて胸ビレ50が形成される。したがつて胸ビレ50が大きな角度θ1を成すように拡げた状態にしたときには、第9図に示すように肩骨55もまた起立させられ、これに応じて頭部軟骨54が魚体の長手方向に沿つて尾部側に変位する。そのため、このような状態で胸ビレ50の付け根を第9図および第10図に示す参照符11で示すカツトラインで切断すると、胸ビレ50を大きく拡げない状態におけるカツトライン12に比べてそのカツトラインが頭部側に寄る。したがつて切断された魚体には、頭部軟骨54が胴側に付着した状態となる。一般に頭部が切断された魚体は、後続する3枚下ろし処理などによってフイレ肉を得ることが行われる。このような3枚下ろし処理では、頭部が切断された魚体に対して機械的にその中骨52を取除く処理が行われ、参照符12で示すカツトラインで切断された魚体の場合には、その魚体の胴側に頭部の軟骨が付着しないため、第11図に示すように希望するフイレ肉F1を得ることができる。しかし参照符11で示すカツトラインで切断した魚体を3枚下ろしにすると、中骨しか除去することができないため、第12図の斜線で示すようにフイレ肉F1に軟骨54が付着したものが得られてしまう。したがつて新たに軟骨54を抜取る作業を行わなければならず、手間がかかり、作業効率が低下する。
本発明の目的は、上述の技術的課題を解決し、魚体の大小にかかわらず、魚体の胸ビレの付け根位置を基準にして魚体を揃えることができかつ、切断された魚体の胴側に軟骨などが付着することなく、魚体の魚卵が傷つくことなく、頭部を切断できるようにしたタラ類の魚卵に傷がつかない魚頭切断装置を提供することである。
本発明は、魚体を搬送方向に交差する方向であつて、かつ横臥した姿勢で搬送する魚体搬送手段と、
魚体の胸ビレに挿入される直線状の線体または緑が直線の薄い板状体と、
上記魚体搬送手段により搬送される魚体を、上記線体または板状体との距離を相対的に近付けて、上記線体または板状体を魚体の胸ビレに、その胸ビレを大きく拡げることなしに挿入させる手段と、
胸ビレが大きく拡げられていない状態で、胸ビレの付け根付近の位置で頭部を切断する切断手段とを含むことを特徴とするタラ類の魚卵に傷がつかない魚頭切断装置である。
以下、本発明をいくつかの実施例により詳細に説明する。
第1図に本発明の一実施例の平面図を示す。
コンベア1には魚体を搬送するための搬送具2…2がコンベア進行方向Rに対し横方向に連続的に並設されている。この搬送具2の構造は魚体を横向きに載せることができる横幅をもち、全体として方形溝形で、第2図に断面図を示すように、頭部を載せる第一部分3と胴部を載せる第二部分4とに分割され、その間に10mm程度以上の間隙5を保ちながら両部分3、4が結合部6により一体に結合されている。第二の部分4の底部の第一の部分に対向する辺の中心部には切欠部7が形成され、その切欠部7にピアノ線8を張設して胸ビレ50が掛るようになつている。コンベア1の所定位置には魚体を尾部の方へ滑らせるための回転ブラシ9が設けられている。回転ブラシ9の下流に魚頭を切断するための回転ナイフ10が設けられている。このとき、魚体の逃げを防ぐため、必要により魚頭を上から押さえつけるベルト11を設け、これをコンベア1と同一速度で走行させてもよい。
この装置において、コンベア1の搬送具2…2上に載せられた魚体は、回軽ブラシ9により魚尾の方へ変位させられるが、そのとき、胸ビレがピアノ線8に掛つてそれ以上変位しなくなる。魚体は胸ビレの付け根とエラ蓋の位置関係が魚体の大小にかかわらずほとんど一定しているので、胸ビレの付け根を揃えて頭部を切断すれば、魚頭先端を揃えて切断する場合に比べ格段に高精度の処理を行うことができる。
第3図に本発明の他の実施例を示す。コンベア1に搬送具2Aが並設されているが、この搬送具2Aには前述の実施例に示したようなピアノ線が設けられておらず、ただ、胸ビレを開かせるための切欠部7のみが形成されている。コンベア進行方向Rに対し角θ傾斜させた1本のピアノ線12が搬送具2A…2Aの下側に近接して張設させている。このピアノ線12の終端よりも下流に魚頭切断用の回転ナイフ10が設けられている。このような構成において、コンベア1上に魚を載せて走行させるとき、魚の載置位置、大小に応じて胸ビレがピアノ線に触れる点はばらつくが、ピアノ線の終端において胸ビレの付け根が揃い、そのままの状態で魚頭が切断される。
第4図に本発明のさらに他の実施例の正面図を示す。
ホイール21は水平軸22を中心に回転する二枚の平行円板から成り、外周に沿つて等間隔に魚頭受け部23…23が配設されている。この魚頭受け部23はホイール半径方向の外方に開口する袋状であつて、ホイール21の側面から魚頭部を固着するための串を貫入する孔24が穿たれ、ホイール21の側面にはカム(図示せず)が設けられており、魚頭受け部23が真上から約60°回転した位置で串が魚頭に貫入し、真下直前の位置で串が抜けるようなカム形状に形成されている。ホイール21の下端のやや下方には2条の平行なピアノ線25がほぼ水平に張設されており、更にその下方には一対のベルト26が矢印方向に走行しており、このベルト26が魚体の胴部を挟んで矢印方向に搬送する。ホイール21の真下位置をやや通過した位置とピアノ線25の間には魚頭を切断するための回軽ナイフ27が設けられている。
このような構成において、ホイール21は所定の回転速度で連続回転し、ベルト26はそのホイールの周速度と等しいかやや速い速度で走行する。ホイール21の魚体受け部23が上部位置にあるとき、魚体が頭を先頭にして魚体受け部23に挿入される。次に、串が貫入されて魚頭をホイールに固定する。魚体がホイールの真下直前に来ると串が抜けて魚体が落下し、左右の腹ビレがピアノ線に引掛つて、第5図に示すようなぶら下り状態となる。このようなぶら下り状態のまま回転ナイフにより頭部が切断除去され、胴部のみ、ベルトにより次の工程へ搬送される。
この実施例における変形例として、一対のループ状ピアノ線を走行駆動させ、魚体を胸ビレで吊るしたまま搬送するよう構成してもよい。また、胴部を挟むベルト26に替えて、尾部をチエーンにより挟着して搬送してもよい。また、上記各実施例における変形実施例として、ピアノ線に替えて薄い板状材を用いても同様の作用効果を奏することができる。
本発明の挿入手段は、上記した回転ブラシによる手段、ピアノ線等を傾斜して設ける手段、重力により魚体を落下させる手段のほか、魚体を搬送するコンベアを傾斜させて魚体を滑落させることによつても実施することができる。すなわち、第6図に示すように、チエーン31のサイドプレートに蝶番32を設けて魚体搬送具33を傾斜自在に構成し、カムの押圧により魚体搬送具33が傾斜したとき魚体が尾部の方へ滑落してピアノ線34に引掛るよう構成することもできる。
また、ピアノ線等を挿入する前、または同時に、水、空気等の流体をノズルから噴出させて胸ビレを開かせるようにすることもできる。
第13図はタラ類などの魚体Fの骨格を示す正面図であり、第14図は第13図の平面図であり、第15図は魚体Fの胸ビレ50を除いた状態の正面図である。各図を参照して、本発明の原理について詳述する。従来技術の項で述べたように、本発明の従来技術として特開昭57-29246(以下、従来例1と称する)および特開昭54-86680(以下、従来例2と称する)が挙げられる。これらの従来例1、2は胸ビレを魚体Fの長手方向を垂直な角度まで大きく拡げ、かつ拡げた状態を維持するに、ブレーキシユー11および案内トラツク13(従来例1)を用い、また案内体4(従来例2)を用いるようにしている。このような従来例1、2は板状の部材、またはこれに類似した部材を用いる点で本発明と類似するかのようであるが、後述するように全く別物である。
すなわち従来例1はブレーキシユー11を用いて胸ビレを大きく拡げた状態で保持する。これは従来例1のFig3に記載されているように魚体の長手方向を垂直方向に延びるブレーキシユー11を用いていることで明らかである。
従来例2はその第4図に記載されているように、水または圧縮空気の噴射3を用いており、胸ビレを強制的に、魚体の長手方向を垂直近くにまで拡げ、かつこのような胸ビレを、鰭起し溝7の縁部分などを用いて固定している。
すなわち従来例1、2では、ブレーキシユー11や噴射3、鰭起し溝7などは胸ビレを魚体の長手方向を垂直付近まで拡げることを実現するための構成である。
一方、本発明は胸ビレを可及的に大きく拡げないようにすることを眼目としている。そのため胸ビレに挿入される部材は、たとえばピアノ線など、魚体Fの厚み方向(第2図上下方向)に関して可及的に短く薄い形状に選ばれることが必要である。(その理由は後述する)
この点で従来例1のブレーキシユー11などは本発明に言う「線体」または「薄い板状体」とは到底いえないものであり、構成、作用、目的共に全つたく別物である。
従来例2は台板6を用いるものの、胸ビレを拡げるものは噴射3であり、鰭起し溝7は、拡げられた胸ビレに当接してこれを拡開状態のまま保持するにすぎない。したがつて本発明でいう「魚体の胸ビレに挿入される」作用を有する部材とは到底いえないのである。
以下に本発明において、胸ビレに挿入される部材が前述したように可及的に薄い形状である必要性を説明する。
本発明の対象魚はタラ類、特にスケソーダラの漁獲後死後1~3日間程度の鮮魚に限定するものである。魚は死んでしまうと胸ビレは胴にびつたり密着した状態になる。このヒレを90°拡げようとすると、死後硬直の魚は脇との部分にかなりの力が必要となる。つまり死後硬直の鮮魚でも拡げにくいのである。
解凍魚ならばなおさら筋肉組織がかたまつてしまつて、ややもするとヒレが折れてちぎれることも少なくない。また、死後硬直後、1日~3日間位までの魚体は、死後硬直以降時間が経つに従つて、逆に柔らかくなり、頭と尾のそれぞれ端をつまんで曲げると一つの円になる位、表皮、骨共非常に軟体動物のごとく柔らかいのである。
問題は、この死後硬直以後の鮮魚の胸ビレは胴側には接しているが、拡げても容易に拡げられるが、胸ビレをとりまく周囲の筋肉組織などの部分類は、ぐにやぐにやしているので、拡げて起こした胸ビレは位置がはつきりせず、胴体の1/1000以下のヒレの重量では到底魚体を支えきれず、任意の位置へ固定させることができない。
つまりヒレの位置によつては、胴体部の位置が定まらないのである。まして、この装置を工船に搭載したら、船のローリング、ビツチのため魚は前後して自由に動くことになる。
タラ類のスケソーダラの胸ビレを起し、ヘツドカツトすると、欠点として
<1>上述のようにヘツドカツトラインが±10m/m位誤差が生じること。
<2>このため、歩留まりが不安定、フイレ形態がそろわない。
<3>フイレ肉の先端にカマ骨が付着するものがある。
<4>原料事情によつて理屈が通らず、ヒレがちぎれたりしてその位置決め機能が無くなる。
<5>大きな問題として卵が排出できないことが多い。また排出できても破卵する。
すなわち胸ビレを基準にして魚頭を切断する場合、時間経過に従つて魚体の筋肉組織は柔化し、かつ当然に胸ビレ自身も柔化する。したがつて胸ビレ自体を保持しても、実際には魚頭の切断位置は確定されないのである。
また胸ビレ50を第14図示の矢符A1のように90°程度起立させると、ヒレ骨61の胸ビレ50他端部付近は、胸ビレ50の起立によつて内側肉62内に埋設し、ヒレ骨61の反対側端部付近にてカマ骨55が外方に押圧され、カマ骨55が2点鎖線で示すように起立する。これにより内側肉62が尾部側に移動し、これに従つて頭部軟骨54も尾部側に移動するのである。したがつてこの頭部軟骨54の尾部側への移動は、いわば圧縮であるのは勿論である。
このようにして胸ビレ50を起立させると頭部軟骨54が尾部側に移動し、これによつて胸ビレ50を起立させない状態での本発明の切断位置12での切断であつても、切断されて得られたフイレ肉の側に頭部軟骨54が残留する事態が発生する。
また第14図に示すように、胸ビレ50が魚体の体側に近接した状態であれば、胸ビレ50と魚皮63との接続位置は矢符A2で示され、この位置が本件発明の切断位置12となる。この切断位置では前述したように胸ビレ50を起立させない限り頭部軟骨54がフイレ側に残留することはなく、良好な品質のフイレ肉が得られる。
一方、胸ビレ50を起立させると、前述したように頭部軟骨54が尾部側に移動する。これに加えて胸ビレ50が魚皮63から離反し、したがつて最終的に起立が完了すると、胸ビレ50は接続位置A3で魚体Fを接続される。この接続位置A2、A3の魚体長手方向の差B1だけ、頭部軟骨54はフイレ肉側に残留することになる。この差B1は、平面視で第14図の幅方向長さC1、C2の差をもたらす。
三枚下ししたフイレの端に軟骨がつく外、さらにもつと重要なことはメスからの卵を無キズでしぼり出すときに、
<1>カマ骨付近のきわどい位置をカツトするとカマ骨の上部のカマの軟骨が残り、卵をしぼり出すときキズがつく。
<2>また、軟骨54が付着していると、切断口がせまく、卵64の出口が狭くて卵64が出にくい。卵を出すためには極めてヘツドカツト位置が正確でなくてはならない。
このためにヒレ50を胴に密着した状態で位置を合わすと、ちようどカツトの位置が卵64の回収に最良の位置となる。
本発明によれば、魚の胸ビレの付け根を揃えた上で頭部を切断処理するので、頭部の大小にかかわりなく正確に不要部分のみを除去することができる。
また本発明によれば、直線状の線体または薄い板状体が魚体の胸ビレにその胸ビレが大きく拡げられることなしに挿入されて位置決めを行なうようにしているため、先行技術の項で説明したように頭部が切断された際、胴側の頭部の軟骨が付着することがなく、したがつて3枚下ろしなどの後続処理を経て得られるフイレ肉に軟骨が残存することが防がれる。
図面の簡単な説明
第1図は本発明の一実施例を示す平面図、第2図は第1図の搬送具2の断面図である。第3図は本発明の他の実施例を示す平面図である。第4図は本発明のさらに他の実施例を示す正面図、第5図はその作用説明図である。第6図は本発明挿入手段の他の実施例を示す側面図、第7図は他の先行技術の基本原理を示す図、第8図は魚体Fの骨格を示す図、第9図および第10図は胸ビレが大きく拡げられた状態で切断されたときとそうでないときの状態を示す図、第11図は希望するフイレ肉の正面図、第12図は先行技術の位置決めによって切断された魚体を用いて得られたフイレ肉の図、第13図はタラ類などの魚体Fの骨格を示す正面図であり、第14図は第13図の平面図であり、第15図は魚体Fの胸ビレを除いた状態の正面図であり、第16図は第15図の平面図、第17図は従来例1、2による頭部を切断された魚体の図、第18図は本発明によつて頭部を切断された魚体の図である。
1…コンベア、2、2A…搬送具、8…ピアノ線、9…回転ブラシ、10…回転ナイフ、12…ピアノ線、21…ホイール、23…魚頭受け部、25…ピアノ線、26…ベルト、27…回転ナイフ。
第1図
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第2図
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第3図
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第5図
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第6図
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第4図
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第7図
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第8図
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第9図
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第10図
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第11図
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第12図
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第13図
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第14図
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第15図
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第16図
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第17図
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第18図
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特許公報
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